スーパーカミオカンデ
国民理解得て研究継続を
東京大宇宙線研究所の観測装置「スーパーカミオカンデ」(岐阜県神岡町)で謎の疎粒子「ニュー
トリノ」を検出するセンサーが大量に破損する事故が起きた。元通りになるまでには数年の歳月と多
額の資金が必要になりそうだ。この観測装置は世界最先端の成果を上げ,ノーベル賞の候補と言われ
る研究者もいる。痛手は大きい。
観測装置は5万トンの水を蓄えた円筒形の巨大水槽(直径39メートル,高さ41メートル)と,そ
の内部に取り付けた1万1146本のセンサーで構成される。センサーは直径50センチメートルの
電球型で,光電子増倍管と呼ばれる。
事故は(平成13年11月)12日午前11時ごろ,発生した。官制室の研究者は大きな音と振動を5
秒間感じた。この間に,過半数の6779本の倍増管が破損し,飛び散ったガラスの破片で,透き通
っていた水が濁った。水槽には亀裂ができ,水位が下がり始めた。
今年7月から保守点検に入っていた。水を抜き,約800本の倍増管を交換した。事故当時は観測再
開に向けて水を注入中で,水槽は約8割まで満たされていた。水槽下部には約3気圧の水圧がかかっ
た状態だった。
倍増管のガラスの内側は真空になっている。水槽底面の倍増管の1本が何かの理由で破損すると,
そこをめがけて,水が猛烈な勢いで押し寄せる。吉村太彦・同研究所長は「水の衝撃波が連鎖的に倍
増管を壊した」と事故原因を推測する。衝撃波の速さは新幹線の約20倍という。
ニュートリは物質を構成する最も基本的な粒子の一つ。電荷を持たず,私たちの体や地球も通り抜
ける。検出が難しく,未解明な部分が多い。ごくまれに水と反応し,その際に電子などの荷電粒子が
できる。荷電粒子が水の中を高速で走ると青白い光を放つ。倍増管がその光を検出し,ニュートリノ
の飛来方向や数などをはじき出す。
最大の成果は98年6月に発表された。現在の理論に従うと,ニュートリノは質量を持たない存在
だが,研究チームは,宇宙線が大気と衝突して生じたニュートリノを観測し,ニュートリノに質量が
あることを示す証拠を得た。常識をくつがえす大発見となった。
このほか,超新星の爆発や太陽の核融合反応で生じるニュートリノを観測し,光ではわからない天
体の様子をとらえた。ニュートリノ天文学という新分野で,提唱者の小柴昌俊・東京大名誉教授は昨
年,イスラエルのウルフ賞を受賞。同賞の自然科学部門受賞者の3人に1人がノーベル賞も受けてお
り,小柴さんのノーベル賞も期待される。
事故が影響を与えるとすれば,ノーベル賞の選考委員会が授賞理由をニュートリノの質量問題に限
定した場合だ。研究チームは,3年後に「質量あり」の結論を出すことを目標に,実験を進めていた。
今回の事故について,,実験責任者の戸塚洋二・同研究所教授は「大変申し訳ない」と陳謝した上
で,海外の研究機関との競争を念頭に,「在庫や無事だった倍増管を使い,1年以内に半分の能力で
実験を始めたい」。文部科学省も,世界に誇れる研究を期待できる装置として,財政支援を表明して
いる。
ただ,スーパーカミオカンデの建設には104億円かかった。世界最大の増倍管は特注品で1本当
たり約30万円かかる。
わずか5秒間で失った倍増管を再製造すると20億円以上になる。しかも不景気。生活と関係のな
い研究に多額の税金を使うことに国民は違和感を覚えるかもしれない。研究チームは事故原因を徹底
的に解明し,その内容を公開して国民の理解を得ることが大切だ。それなしでは,研究者の夢である
「未知の現象を解明する楽しみ」が遠のきかねない。研究の継続には再発防止と再建費用を最小限に
抑えていく努力が欠かせない。
(記者:毎日新聞科学環境部 田中泰義)
西暦2001年(平成13年)11月24日(土)毎日新聞