原子の探究 原子論の変遷
物質は何からできているかということは、古代から人類の関心の的であった。古代ギリシャの
ターレス(ギリシャ、BC625頃〜547頃)は「万物は水からなる」といい、デモクリトス(ギリ
シア、BC460頃〜370頃)は原子論をとなえ、「宇宙は空虚な空間と分割不可能な原子からなる」
といい、アリストテレスは「地上の世界は土・水・空気・火の4元素からできている」といった。
しかし、原子論は無神論につながることから、17世紀になってガッサンディ(フランス、1592
〜1655)が原子論を復活させるまで、非難され抑圧されてきた。
それまで単に1つの考え方にすぎなかった「原子」が、現実に存在するものとして認識され始
めるのは、燃焼理論を追求するなかで近代的な元素の概念に到達したラボアジェからである。こ
れに始まる化学の近代化は、19世紀に入ってドルトンの原子論の確立となった。19世紀の後半
には、スペクトル分析法や電気分解法などによって、60種類もの元素が発見されていた。これ
らを整理してメンデレーエフ(ロシア、1834〜1907)は周期律表をつくり、元素を原子量の順
に並べると、その化学的性質が周期性をもつことを見いだした(1869)。
メンデレーエフ ドルトン
原子の構造
トムソンによる電子の発見によって、原子は分割不可能な物質の最小単位という、その役割を
返上しなければならなくなった。すなわち、電子がどの原子からも飛びだすことから電子は原子
の構成要素であり、したがって、原子にも構造があることが予想されたのである。電子は人類が
発見した初めての素粒子である。
原子内に電子があることが確実になると、原子の模型がいろいろと提唱された。トムソンは一
様に正に帯電した球の中を電子がまわっているという模型を提唱し(1604)、長岡半太郎(日本、
1865〜1950)は正電荷をもった球のまわりを電子がまわっているという模型を提唱した(1904)。
ラザフォードはガイガー(ドイツ、1882〜1945)らとα線の金属薄膜による散乱を調べてい
て、質量の大きいα粒子が大きく散乱されるはずはないという予想に反して、90°以上曲げら
れるものがあることを見つけた。これは、トムソンの模型のように電荷が原子全体に広がってい
るとしたのでは説明できない。ラザフォードは、正電荷が原子の中心に集中しているという模型
(ラザフォード模型)で計算し、実験結果と一致することを見いだした(1911)。ここに、原子
の中心には正電荷をもった小さくて重い原子核が存在することが示された。
長岡半太郎
原子の構造に関する情報には原子のスペクトルがあった。中学校の先生バルマーは、水素のス
ペクトルの波長が簡単な数列になっていることを発見した(1885)。リュードベリは他の原子の
スペクトルもくわしく調べ、リュードベリの公式といわれる1つの式にまとめることに成功した
(1890)。
量子力学の誕生
19世紀末には、力学と電磁気学を2つの大きな柱とした物理学によって、自然現象をすべて
説明できると考える人が現れるまでになっていた。ところが、今世紀にかけて従来の物理学では
説明のつかない現象が次々と見つかった。熱放射のエネルギー分布、光電効果、固体の低温にお
ける比熱、原子のラザフォード模型などである。これらの問題の解決には従来の常識をくつがえ
すような新しい考え方が必要であった。プランクは、それまで連続的な値を取り得るものと思わ
れていたエネルギーが、ある最小単位(エネルギー量子)の整数倍の不連続な値しかとれないと
仮定し、熱放射のエネルギー分布をみごとに説明した(1900)。アインシュタインは、プランク
のエネルギー量子は光の粒子性(光量子)を示すものと考えて光電効果を説明し、固体分子の振
動エネルギー量子の考えを適用して、固体の比熱の問題を解決した(1905)。
プランク
原子のラザフォード模型には難点があった。電子が原子核との静電気力にさからって原子核に
落ちこまないためには、回転運動をしていなければならないが、荷電粒子が回転運動をすれば電
磁波を放出してエネルギーを失う。計算によると、電子は10-11 秒程度の短い時間で原子核に落
ちこんでしまうことになる。これを解決するために、ボーアはリュードベリの公式から水素原子
の理論を考えた(1913)。
アインシュタイン ボーア
ボーアの提唱した原子の不連続なエネルギー準位はフランクとヘルツによって実験的に確認さ
れた(1914)。ところが、ボーアの理論は古典物理学の範囲を出るものではなく、原子を扱う一
般的な理論の出現が求められた。これはドブロイの物質波の理論を経て、ハイゼンベルグ(ドイ
ツ、1901〜1979)の行列力学(1925)とシュレーディンガー(オーストリア、1887〜1961)の
波動力学(1926)となって実を結び、ここに、原子のような小さな世界を取り扱う物理学の理論、
すなわち量子力学が生まれたのである。
原子核の中のエネルギー−核エネルギー−
核力 原子核を構成している陽子や中性子はどのような仕組みで結びついているのだろうか。陽
子は正電荷をもつからたがいに電気的な反発力をおよぼし合うので、これらの粒子をまとめる何
かの引力が別に存在しなければならない。核子を結びつけるそのような力を核力と呼んでいる。
湯川秀樹(1907〜1981、日本)は、核力の研究でわが国初のノーベル賞を受賞した。
湯川秀樹